サイトカインとは難しい言葉では、”主に免疫系細胞から分泌されるタンパク質で、標的細胞表面に存在する特異的受容体を介して生理作用を示し、細胞間の情報伝達を担う物質の総称である”と言われています。
簡単にいうと、細胞から細胞へ連絡をするための”お手紙”のようなイメージをもってください。
サイトカインは細胞が用いる“ことば”ともいわれており、”お手紙”という表現も言いすぎではないと思います。
参考文献
サイトカインの種類

この”お手紙”であるサイトカインは、受け手側の受容体にくっ付く、言い換えると受容体とは”ポスト”のようなモノで、ポストに入らないと情報は伝わりません。
サイトカインは、この”ポスト”の種類ごとに分類されています。
下記に分類を書きますが、まずこういうふうに分かれているだけと知ってもらえればと思います。
*サイトカインの分類(受容体による分類)
代表的なもの | 受容体による分類 | |
インターロイキン(IL)
造血因子 など |
IL-6 など
CSF、EPO、TPO など |
I型サイトカイン受容体 |
インターフェロン(IFN) | Ⅱ型サイトカイン受容体 | |
腫瘍壊死因子(TNF) | Ⅲ型サイトカイン受容体 | |
増殖因子 (GF:グロースファクター) | 上皮増殖因子(EGF)など | チロシンキナーゼ型受容体 |
増殖因子 | 形質転換増殖因子(TGF)など | セリン・セレオニンキナーゼ型受容体 |
ケモカイン | ケモカイン型受容体 | |
インターロイキン | IL-1など | 免疫グロブリンスーパーファミリー型受容体 |
サイトカインの役割
サイトカインの主な役割は、主に免疫細胞に働きかけて(免疫細胞だけとは限りません)、その免疫細胞を活性化したり、呼び集めたりすることです。
さらに呼び集められた免疫細胞が、同じようにサイトカインを使って他の細胞に働きかけます。
このようにサイトカイン同士で互いに連携した作用を持ち、ネットワークを形成します。
それによりお互いが協力したり(協調)、時には抑制したりします(拮抗)。
参考文献:
炎症作用、抗炎症作用
免疫細胞は、病原体やがん細胞などの異物を体内で発見すると、IL-1やIL-6、TNFαなどの炎症を引き起こすサイトカイン(炎症性サイトカイン)を出します。
それにより、生体の炎症(異物排除)、発熱や腫れなどを促し免疫反応を活性化させます。
一方、IL-10や、TGF-βなどは炎症を抑える作用があり抗炎症性サイトカインと呼ばれ、こうした免疫反応が過剰にならないよう炎症を抑制する作用があります。
参考文献:
Cytokines, inflammation, and pain
免疫調整作用
先に言ったように、炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインが天秤のようにバランスをとって、炎症が過剰にならないように調整しています。
しかし、ウイルスの侵入や薬剤投与などが原因で、この炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインのバランスが崩れ、炎症性サイトカインが過剰になると、次々と炎症によるダメージが身体中で発生します。
この結果、自分の細胞まで必要以上に傷づけてしまう現象を「サイトカインストーム」と呼びます。
参考文献:
創傷治癒
創傷治癒とは、皮膚などの傷口がくっ付いて治ることです。
創傷治癒過程は①炎症期,②増殖期,③再構築期という3つにわかれます。
最初の炎症期では傷口に出血を止める役割の血小板が集まり傷口を塞ぐとともに様々なサイトカインや細胞成長因子(FGF、PDGF、TGFなど)を分泌し好中球・マクロファージ・リンパ球などの免疫細胞が集まってきます。.
次の増殖期では,皮膚の成分をつくる細胞(表皮細胞,線維芽細胞,血管内皮細胞など)が増えて,再上皮化,肉芽組織の形成(かさぶた)ができます。
その後に、いったん生じた瘢痕組織などを正常にもどす再構築期に続いていきます。
そこで、この増殖因子を使うことで傷口の治りを早める治療薬が現在使われており、フィブラストスプレー®️という商品名で医療用に販売されています。
参考文献:
創傷治癒に関わる細胞増殖因子/サイトカイン・増殖因子/治療用具・材料/治療に関わる方のために/傷と治療の知識/特定非営利活動法人・創傷治癒センター
作用機序/サイトカイン・増殖因子/治療用具・材料/治療に関わる方のために/傷と治療の知識/特定非営利活動法人・創傷治癒センター
The Japan Society for Clinical Immunology
Regulation of wound healing by growth factors and cytokines
The wound healing process: an overview of the cellular and molecular mechanisms
サイトカインとがんの関係
発がんやがんの増殖に炎症は関与しています。
炎症は癌の発生や増殖・浸潤・転移といった、がんのさまざまな段階で重要な役割をもっています。
そして、その炎症反応はサイトカインが中心的役割を果たしています。
がんの発育を促すように働くサイトカインとして、代表的なものにTNF、IL-6、TGFがあります。
逆に、がんの発育を阻止するように働くサイトカインとして、代表的なものにIFN-γがあります。
この相反するサイトカインのバランスで”がん”がどうなっていくのか決まっていきます。
前者のTNFやIL-6は慢性的な炎症をひきおこし、栄養代謝障害である悪液質(cachexia)の状態につながることがあります(がんによって痩せてしまう状態)。
参考文献:
Inflammation and cancer: back to Virchow?
大腸癌と炎症性サイトカイン. 大腸がんperspective 4: 54-58, 2018.
がん免疫応答にかかわるサイトカイン・ケモカインの応用研究. 実験医学 2019.37.2478-2483
このサイトカインを治療のターゲットとして、さまざまな研究がなされていますが、TNFやIL-6をターゲットにした治療は、結果はあまりよくなかったというように、がんとサイトカインとの関係は単純ではなく複雑にからみ合っています。
サイトカインが関連する病気とその治療

病気のなかでは、その原因が解明されてきて、病気の主な原因としてサイトカインが病態に深く関わっているものがわかってきました。
1990年後半からそういったサイトカインを直接ブロックする薬剤(主にモノクローナル抗体)が開発され、生物学的製剤といわれています。
現在のところは、医療で使用することができる生物学的製剤のある病気は、代表的なもので、関節リウマチ、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)、乾癬(皮膚の病気)、アトピー性皮膚炎や気管支喘息といったアレルギー疾患などがあります。
またB型肝炎やC型肝炎は肝炎ウイルスの感染が原因で、ウイルス増殖を抑えるサイトカインであるIFNがこれら肝炎治療に用いられています。
最近では、細胞がサイトカインを受け取ったあとに起こる反応が解明され、その一部の役割を抑えることで、サイトカインの効果を小さくする薬剤も開発されています。
これは◯◯キナーゼ阻害薬とよばれ、抗がん剤の治療薬や、その他関節リウマチでも使用することができるようになりました。
自己免疫性疾患
関節リウマチ、炎症性腸疾患、乾癬など皮膚疾患
関節リウマチは関節が腫れて骨がダメージを受け最終的に関節が壊れてしまう病気です。
関節リウマチは、その病態にTNFとIL-6のサイトカインが深く関わっており、これをターゲットにした生物学的製剤が開発されました(TNF阻害薬、IL-6受容体阻害薬)。
これにより、それまでは関節が徐々に壊れていくを待つしかなかった治療が、寛解(かんかい)という、炎症がなくなり関節の破壊が進まない状態を達成できるようになってきました。 それに加えて、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬というIL-6などのサイトカインの作用を小さくできる薬剤も開発され、治療がなかなか難しいひとへ、生物学的製剤と同様に推奨されています。
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)も、関節リウマチとは違う背景の病気ですが、腸での炎症にTNFが深く関わっており、関節リウマチと同じTNF阻害薬が非常に有効な治療となっています。TNFだけではなく、IL-12/IL-23も病態に関わっており、クローン病ではIL-12/23阻害薬が使われています。
皮膚疾患としては、乾癬(尋常性乾癬、膿疱性乾癬)も、TNFが病気に深く関わっており、TNF阻害薬が有効な病気です。また、乾癬はIL-17/IL-23も深く関わっており、現在はIL-17阻害薬やIL-23阻害薬も使用することができるようになりました。
参考文献:
生物学的製剤(bDMARDs, Biologics) | 一般社団法人 日本リウマチ学会(JCR)
血管炎
血管炎とは、全身の血管(動脈、小動脈、毛細血管、小静脈、静脈)で炎症が生じる自 己免疫性疾患です。
血管炎は、大きく3つに分類されます。
① 小型血管炎(毛細血管) ⇨ ANCA関連血管炎など
② 中型血管炎(大動脈より細く毛細血管より太い血管)⇨ 結節性多発動脈炎など
③ 大血管炎(大動脈・大動脈分岐すぐの血管)⇨ 高安動脈炎、側頭動脈炎
血管炎では、炎症性サイトカインのIL-6が病気と関わっており、大血管炎では、IL-6をブロックできるIL-6受容体阻害薬が治療として使用されています。
参考文献:
中・小型血管炎の病態 | 日腎会誌 2014;56(2):98-104.
アトピー性皮膚炎、気管支喘息、鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎
アレルギー疾患もサイトカインをターゲットにした生物学的製剤が開発されています。
アレルギーでは、現在のところ、下記の3つの治療薬が使用できます。
①免疫細胞のTh2というT細胞が活性化している(IL-4/IL-13) ⇨ IL-4受容体阻害薬
②肥満細胞からヒスタミンを出すよう刺激する免疫グロブリンE[IgE] ⇨ IgE阻害薬
③好酸球の活性化させるIL-5 ⇨ IL-5阻害薬
皮膚疾患では、アトピー性皮膚炎は①に対する治療が開発され、デュピルマブという名前で使用されています。また、JAK阻害薬は、IL-4を含むアレルギーと関連するサイトカインの作用を小さくする効果があり、アトピー性皮膚炎の治療でも使うことができるようになりました。
気管支喘息では、①②③に対する治療が有効であり、②ではオマリズマブという製剤が、③では、メポリズマブ、ベンラリズマブという製剤が治療として用いられています。
鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎は、①に対する治療が使用することができますが、③に対するベンラリズマブの治療の有効性も報告されています。
参考文献:
薬生薬審発 1124 第1号 令和2年 11 月 24 日 都 道 府 県 各 保健所設置市 衛生主管部(局)
生物学的製剤と呼吸器疾患 診療の手引き | 一般社団法人 日本呼吸器学会
デュピクセント®の働き|デュピクセントについて|デュピクセントを使用される患者さんへ|サノフィ株式会社
ウイルス感染症
HBV、HCV
B型慢性肝炎は、肝臓細胞内にB型肝炎ウイルス[HBV]が侵入することで起こります。
B型慢性肝炎の治療は、ウイルスの増殖を抑制するサイトカインであるIFN療法があり、最近では、直接HBVの増殖を抑制する直接作用型抗ウイルス薬(DAA)が使用できるようになりました。
C型慢性肝炎は、C型肝炎ウイルス(HCV)が肝臓細胞に侵入することで起こります。
C型慢性肝炎の治療も、ウイルスの増殖を抑制するサイトカインであるIFN療法が用いられていましたが、C型慢性肝炎も、HCVを直接作用して抑制する薬剤(DAA)が使用できるようになり、格段に治療効果が向上しました。
しかしながら、HCVは上記治療により完全に体内から排除できますが、HBVはDNAウイルスのため、一旦肝細胞の中に取り込まれると治療をしても排除が完全にできないという違いはあります。
参考文献:
新型コロナ感染症(COVID-19)
COVID-19については、感染後の重症化にサイトカインが関わっています。
COVID-19が体内に入り感染したのち、ウイルス増殖を抑えるサイトカインであるIFNが作られますが、初期にこれが十分に作られないとCOVID-19を抑え込めず、ウイルスが増殖してしまいます。
さらに、遅れてからIFNが出てきてしまうと、COVID-19を抑制するのではなく、逆にCOVID-19の重症化と関連してしまうことがわかりました。
重症化には炎症性サイトカインであるIL-6なども関与しており、関節リウマチで使用されるヤヌスキナーゼ[JAK]阻害薬であるバリシチニブは、IFNやIL-6の反応を抑制する薬剤であり、現在COVID-19によるサイトカインストームの治療で用いられています。
参考文献:
サイトカインの今後期待される治療

先にあげた自己免疫性疾患では、サイトカインをターゲットにした治療が日常診療として用いられていますが、この瞬間にも、他の自己免疫性疾患や別の病気においても、病気に深く関わるサイトカインの治療薬が開発されています。
全身性エリテマトーデス(SLE)
全身性エリテマトーデス(SLE)は、ほとんどの免疫細胞が関与しており、自己免疫性疾患の代表的な病気の一つです。
サイトカインをターゲットにした現在使用することができるSLE治療薬はベリムマブのみです。
ベリムマブは、抗体産生とかかわるB細胞の活性化を起こすBAFF(Bcellactivatingfactorbelongingtothetumornecrosisfactorfamily)をブロックする薬剤です。
SLEの病気がすこしづつ解明されてきて、IFNが病気の発症や、増悪(病気が悪くなる)に関係していることがわかってきました。
そして、このIFNをターゲットにした薬剤が使用可能となり(アニフロルマブ:2021.10.24現在販売準備中)、SLEの治療の選択肢がふえて、SLE治療がさらに向上することが期待されます。
参考文献:
SLEにおける治療標的としてのサイトカイン | Nature Reviews Rheumatology | Nature Portfolio
炎症性アテローム性動脈硬化症(糖尿病や動脈硬化など慢性炎症を伴う代謝性疾患)
IL-1βは炎症経路における重要な炎症性サイトカインの1つです。
炎症性アテローム性動脈硬化症の継続的な進行に関与するが報告されています。
日本では、IL-1を阻害する薬剤はカナキヌマブが使用することができます。
使用できる病気は、自己炎症性疾患(クリオピリン関連周期性症候群・家族性地中海熱
TNF受容体関連周期性症候群・高IgD症候群・全身型若年性特発性関節炎)です。
海外で心筋梗塞になったことがあり、血液検査で炎症があったひと達(炎症性アテローム性動脈硬化症患者)にカナキヌマブを投与した研究が行われました(CANTOS試験)。
その結果は、カナキヌマブを投与した人たちは、投与しなかった(プラセボという偽薬を投与された)ひと達よりも、心筋梗塞などの発生が少なかったことを報告しました。
また、カナキヌマブを投与されたひと達は、がん、特に肺がんの発生や悪性化を抑制することもわかりました。
以前から、炎症があると心筋梗塞などになりやすい、炎症ががんの素地でもありうるということが言われており、炎症を抑える治療がこれらを抑制できることがわかりました。
日本ではまだわかりませんが、海外では今後、抗炎症作用の薬剤を抗がん剤として開発することが活発化いていくかもしれません。
参考文献:
カナキヌマブの注目の試験結果|学術・業界情報|リーズナブルな価格で高品質な受託サービス 株式会社ジェネティックラボ
Antiinflammatory Therapy with Canakinumab for Atherosclerotic Disease
アルツハイマー病
アルツハイマー病は、脳でタウ蛋白という物質が蓄積して発症する認知症です。
最近の研究でアルツハイマー病とIL-33との関連がわかってきました。
IL-33は、アレルギー炎症にかかわる細胞(Th2細胞・好酸球・マスト細胞・好塩基球など)に作用して、気管支喘息をはじめとするアレルギー疾患との関わるサイトカインです。
以下の報告から、IL-33がアルツハイマー病と深く関わっていることが報告されました。
①IL-33の遺伝子に、アルツハイマー病の発症と関係がある遺伝子変異があること
②アルツハイマー病のひとの脳ではIL-33の作られる量が少ないこと
③IL-33は、タウ蛋白の蓄積する引き金のアミロイドβ40を少なくさせること
今後、IL-33の投与がアルツハイマー病の治療となるかが期待されています。
参考文献:
善本知広IL-1ファミリーサイトカインのすべて 別冊「医学のあゆみ」 サイトカインのすべて/医歯薬出版株式会社
Transcriptomic and genetic studies identify IL-33 as a candidate gene for Alzheimer’s disease
Therapeutic Opportunities of Interleukin-33 in the Central Nervous System
子宮内膜症
子宮内膜症は、子宮内膜組織が子宮内膜以外の場所に存在して増殖することで起こる病 気です。これにより、月経困難や不妊の原因にもなります。
子宮内膜症は、女性ホルモンのエストロゲンが関連する病気です。
そのため、治療は経口避妊薬による偽妊娠療法(女性ホルモンが高くならないようにす る)や、状況によっては子宮摘出術が行われています。
最近の研究で、子宮内膜症の早期にはIL-1やIL-33が体内で増えてくること、動物を使った実験で、IL-33をブロックすると子宮内膜症を抑えることが判明しました。
また、子宮内膜症での女性ホルモンであるエストロゲン産生についても、IL-1やIL-4が関連していることがわかりました。
これらのことから、IL-1の阻害薬や、IL-33の阻害薬が、子宮内膜症の治療・再発予防になることが期待されています。
参考文献:
善本知広IL-1ファミリーサイトカインのすべて 別冊「医学のあゆみ」 サイトカインのすべて/医歯薬出版株式会社
サイトカインと再生医療の関係
再生医療とは、失った組織や臓器に対し、幹細胞を使って機能を回復する医療です。
幹細胞は、あらゆる細胞になることができる多能性幹細胞と、どの細胞になるか既に運命づけられた幹細胞(前駆細胞)体性幹細胞に分類します。
前者の代表はiPS細胞、後者の代表は間葉系幹細胞(MSC)で、採取しやすいものが脂肪由来幹細胞(ASC)です。
また、幹細胞はそれ自身がさまざまな細胞に分化(変化すること)だけでなく、さまざまなサイトカインを産生する能力をもっています。
幹細胞培養上清液(幹細胞を培養したあとの培養液の上澄み)には、種々のサイトカインや増殖因子が含まれています。
幹細胞ではないですが、血小板も細胞内にいろいろなサイトカインや増殖因子を含んでおり、血小板が多く含まれている血漿:多血小板血漿[PRP](血液から血球を除いたもの:血漿)には、多くのサイトカインや増殖因子が含まれ、実際に病気などへの治療として試みられています。
参考文献:
脂肪由来幹細胞を用いた再生医療|名古屋大学大学院医学系研究科 腎臓内科
Front Neurosci. 2013 Oct 24;7:194. doi: 10.3389/fnins.2013.00194.
リジュビネーション(肌の若返り)
PRPや幹細胞培養上清液といった、さまざまな増殖因子やサイトカインを含むものを用いた治療が美容皮膚科で報告されています。
現在は、他と比べると入手が比較的容易なPRPの報告が多くされています。
PRPは、種々の増殖因子(血小板由来GF[PDGF]、血管内皮GF[VEGF]、TGF、EGFなど)を含んでおり、これが相まって創傷治癒促進作用をもたらすとされています。
PRP治療(皮下注射)によって、皮膚の厚さの増加、皮膚コラーゲン量の増加、皮膚色素沈着の減少など、皮膚の状態が改善されることが示されました。さらに、シワ,キメ,毛穴などのパラメータの改善も認めた報告があります。
参考文献:
Facial Plast Surg. 2014 Apr;30(2):157-71. doi: 10.1055/s-0034-1372423. Epub 2014 May 8.
Facial plastic surgery : FPS vol. 30,2 (2014): 157-71. doi:10.1055/s-0034-1372423
- 美容皮膚科講義(第7回) 多血小板血漿(platelet-rich plasma;PRP)療法. Bella Pelle (2432-2016)3巻3号 Page223(2018.08)
変形性関節症
PRPは、そのいろいろなサイトカインや増殖因子により、組織修復作用や抗炎症 作用をもつことが、変形性関節症(OA)、特に膝のOAで報告されています。
PRP関節内投与の有効性は約60%と報告され、疼痛改善や、膝軟骨修復作用をもたらすことがあります。
しかしながら、膝の変形が重症な方(関節の隙間が無くなっている方)や、肥満の方ではPRP療法の効果が低下します。
ただし、非常に副作用の少ない治療ですので、手術ではない保存加療のうちの一つの選択肢として勧める専門医もいます。
参考文献:
J Orthop Surg Res. 2017 Jan 23;12(1):16.
Arthroscopy. 2017 Mar;33(3):659-670.e1.
Curr Rev Musculoskelet Med. 2018 Dec;11(4):624-634.
Cell Tissue Res. 2019 May;376(2):143-152.
J Clin Orthop Trauma. 2019 Oct;10(Suppl 1):S179-S182.
Curr Rev Musculoskelet Med. 2018 Dec;11(4):583-592.
歯槽骨再生
1990年に、顔面骨領域の再生にPRPが効果があったとの報告がされ、PRPが歯科領域で注目されました。
しかしながら、その後は骨再生に効果があった報告、効果がなかった報告があ り、玉石混合の結果となっていました。
原因としては、PRPが製剤として常に同じ品質ではないこと、歯の領域は他の領 域とことなり血管に乏しく、感染症にさらされやすいことが挙げられています。
参考文献:
Curr Pharm Biotechnol. 2012 Jun;13(7):1207-30.
Curr Pharm Biotechnol. 2012 Jun;13(7):1231-56.
Eur J Oral Implantol. Spring 2010;3(1):7-26.
Clin Oral Implants Res. 2008 Jun;19(6):539-45.
多血小板血漿とそこから派生した血小板濃縮材料:再生医療に関与する歯科医が押さえておきたいポイント. 日本歯周病学会会誌 2017;59:68-76
脱毛症
脱毛症(男性型脱毛症含め)にPRPが有効だったとの報告があります。
PRPはさまざまな増殖因子を含み、それが発毛を促進しているといわれています。
ほとんどの報告(62.5%)で、PRP療法を受けることで状態の改善(毛髪の成長と 太さの増加)が見られました。
円形脱毛症の患者における有効率は31.7% – 76%であり、男性型脱毛症の患者におい ては、25.55% – 42.75%に有効だったと報告されています。
主な副作用はPRP注入時の痛みでしたが、治療終了後には消失したとのことで、 PRPは安全で簡単な脱毛改善治療と考えられます。
PRP治療は、比較的効果が良くて副作用が少なく、脱毛症や抜け毛の治療に適した 方法として期待されています。
参考文献:
Dermatol Ther. 2021 Mar;34(2):e14768.

その他参考文献
別冊・医学のあゆみ サイトカインのすべて 医歯薬出版株式会社
公開日 2021年12月24日
監修:【エルディアクリニック医師監修】